7月の参院選の前哨戦と位置づけられた東京都議会選挙では、自民党が59人の候補全員を当選させて第一党の座を民主党から奪還した。この勢いは参院選まで続くとみられる。さんざん民主党に振り回されてきただけに、財界は自民党の党勢回復を手放しで喜んでいるかと思えば、どうもそう簡単ではない。安倍政権からは、これまでも看板政策の実現に向け、経団連などの経済団体に何度か協力要請がなされている。今年2月には、デフレ脱却に向けて賃上げが求められた。4月には、大学生の就職活動時期の後ろ倒し、また社員が育児休暇を3年とれるようにするための環境整備、女性役員を少なくとも1人登用することなどが要請された。いずれも企業としては安請け合いもできないテーマばかり。経済団体側は「総論賛成、各論反対」式の歯切れの悪い対応をせざるをえず、どことなく経営者が「抵抗勢力」であるかのような雰囲気になってしまっている。「自民党が参院選で大勝すると、官邸からの要求がさらに強まるのではないかと心配」(経済団体幹部)という懸念の声が聞かれるようになった。なかでも財界総本山の経団連の悩みは深い。安倍首相と米倉弘昌会長の関係は、アジア外交、金融政策などに関する意見の相違からこじれにこじれている。その間隙を縫うように、経済同友会が政権に近づいている。同友会の副代表幹事である新浪剛史・ローソンCEO、同じく政策懇談会委員長である金丸恭文・フューチャーアーキテクト会長兼社長は、安倍首相とメールで意見交換できる仲だ。また、楽天の三木谷浩史会長兼社長もかねて安倍首相とは昵懇(じっこん)だ。三木谷氏が旗揚げした新経済連盟は一般医薬品のネット販売解禁などで存在感を示した。アベノミクスの「3本目の矢」である成長戦略を議論する産業競争力会議には、長谷川、新浪、三木谷の各氏が起用される一方で、米倉会長には出番がなかった。政権の「経団連離れ」は露骨なほどだ。安倍政権は10月に召集される見通しの臨時国会を「成長戦略国会」と位置づけており、関連法案の成立を急ぐ構えだ。なかでも、柱となるのが景気に即効性のある設備投資のテコ入れ。昨年度に63兆円だった設備投資をリーマンショック前の年間70兆円レベルに3年で戻すことが当面の狙いだ。そのために投資減税などの支援メニューが検討されている。リーマン・ショック以降の円高で日本の製造業の海外移転は決定的に進んだ。国内に投資をするという決断を経営者はなかなかしにくいのが現実だろう。しかし、設備投資の増加による景気の底上げは政権としても譲れない課題だ。設備投資がらみであれば重厚長大産業が主要メンバーの経団連が矢面に立たされるのは間違いない。強すぎる自民党との距離感をつかむのは、なかなか難しいようだ。